鍼灸(はりきゅう)の効果について

0.鍼灸(はりきゅう)の効果について

1.はじめに
2.鍼灸(はりきゅう)の適応疾患
3.鍼灸(はりきゅう)は、何で効果があるの?
4.はりきゅうマッサージ シーベルズ大磯ができること
5.治療院は、お寿司屋さん!?
6.最後に

1.はじめに

 「鍼灸(はりきゅう)って、何に効果があるのですか?」と、よく質問されるのですが、私は「どんな症状にでも一定の効果がある」と回答しています。しかし、鍼灸治療をしたのだけれど、効果があまり感じられなかったという方もいらっしゃるかと思います。実際にそういった声を聞きます。

その時は「効果が出なかったのは、先生の技術や得意分野の問題が大きく、鍼灸がダメ、ということではないと思います」と説明しております。私の場合は、1回の治療ごとに効果を感じるように施術はしておりますが、それでも3~5回施術して効果が感じられなかった場合、今後治療を続けるかどうかは患者さんと相談します。

その時も「これは鍼灸が悪いのではなく、私の治療方法が合わなかった。だから、鍼灸治療は効果がないと思わないで欲しい」とお話します。なるべくこういった状況にならないように頑張っておりますが、やはり、私の守備範囲外の難しい患者さんはいらっしゃいます。

また、同様の質問で「鍼灸(はりきゅう)って、合う合わないってあるんですか?」というのもあります。私は基本的に「ない」と思っていますが、やはり流派の違いで刺激の量の違い等がありますから、そのように感じられることもあると思います。

 私は、痛みの治療に関しては、やや刺激ある治療方法を選択することが多いのですが、どうしても「合う」「合わない」が出てしまいます。効果があると分かっているので、ちょっと我慢して私の治療を続けている人もいるし、「この刺激がたまらく良い。効果がありそう。他にはない。」と言って、喜んで治療を受けている人もいます。

ですから、先ほどと似たような回答になりますが、「合わないと感じたのは、先生の技術や得意分野の問題が大きく、だから鍼灸が合わない、ということではないと思います」とお話します。

 鍼灸治療が初めての方だと、例えば、痛みに弱く注射が苦手だから鍼は無理とか、先端恐怖症だから鍼は絶対ダメだと言う方もおられますが、ものすごい細い鍼を皮膚表面に数ミリ入れて、ほぼ無痛で治療されている先生も多いですし、「まったく鍼を刺さない」という技を使って治療をされている先生もいらっしゃいます。私はできませんが。こういった治療法でしたら、多分大丈夫と思います。

また、金属アレルギーだからダメだと思っている方もいるかもしれませんが、アレルギーは皮膚に持続的に接触しているとでることが多く、鍼の場合は接触面が非常に小さいので、問題ないことが多いです。鍼はステレンス製を使用することが多いですが、「銀」「金」を使う先生もいらっしゃいます。

 鍼灸治療の経験がある方で合わないと思ってしまう理由には、1~2回の治療であまり効果を感じず、効果が出る前にあきらめてしまったのかも知れないし、治療後の生活習慣があまりよろしくなかった、ということもあるかもしれません。しかし、それは患者さんが悪いのではなく、治療する側が、治療計画や治療後の注意点をきちんと説明していない(説明したが伝わっていないことも)ということに問題があると想います。

2.鍼灸(はりきゅう)の適応疾患

 では、鍼灸はどんな病気・疾患に効くのでしょうか?公的なエビデンス(証拠)などはあるのでしょうか? 日本では、一般的には腰痛、肩こり、膝痛などの痛み(整形外科系疾患)に対して鍼灸を受けることが多いので、痛みに鍼が効くというのは、ご存知の方も多いと思います。

 しかしそれだけではありません。NIH(アメリカ国立衛生研究所)やWHO(世界保健機構)が、一定の範囲で鍼治療の有効性があると発表しております。WHOでは鍼灸治療を受療するのが望ましい疾患として、以下のものを挙げています。これについては、鍼灸関連のHPで記載されていることが多いので、目にしたことがあるかもしれませんが、一部を載せておきます。

★消化器疾患:胃痛、胃弱、胃酸過多、下痢、便秘

神経疾患:不安神経症、うつ病、不眠症、自律神経失調症、片頭痛、パーキンソン病、脳血管障害後遺症

★眼・耳・鼻・咽頭疾患:白内障、中耳炎、耳鳴り、歯肉炎、歯痛

★生殖・泌尿器系疾患:膀胱炎、尿道炎、性機能障害、尿閉、腎炎、前立腺肥大、陰萎

★婦人科系疾患:月経前症候群(PMS)、不妊症、生理痛、月経不順

★呼吸器系疾患:気管支炎、喘息、風邪および予防、扁桃炎

★その他:禁煙、薬物中毒、更年期障害、術後痛、逆子、血圧、外傷の後遺症、免疫システムの調整、ストレスの緩和

 私が所有している鍼灸の本で、これは中国の訳書なのですが、様々な疾患の治療方法が掲載されています。当然ある程度の効果が認められているものしか掲載されていません。いくつか挙げてみましょう。

★消化器系:胃下垂、潰瘍性大腸炎、慢性胃炎

★神経疾患:三叉神経痛、顔面神経麻痺、ALS、むずむず脚症候群、坐骨神経痛、仮性球麻痺

★眼・耳・鼻・咽頭疾患:緑内障、副鼻腔炎、眼筋無力症、メニエル病、慢性鼻炎、網膜色素変性症

★生殖・泌尿器系疾患:前立腺炎、尿路結石、精液減少症、機能性射精不全(遅漏)

★婦人科疾患:妊娠悪阻、習慣性流産、子宮下垂、子宮筋腫、慢性骨盤内炎症性疾患

★呼吸循環器系疾患:冠状動脈疾患、不整脈、高血圧

★その他:甲状腺機能亢進症、糖尿病、多発性硬化症、帯状疱疹、関節リウマチ、痛風、慢性ウイルス肝炎

 適応の幅広さに驚かれた方もいるかと思います。今後、日本版NIHも設立されるとの話もあるようなので、鍼灸の効果をもっともっと研究して欲しいと思います。

3.鍼灸(はりきゅう)は、何で効果があるの?

 鍼灸の有効性が分かり、そのメカニズムを解明しようと、世界中で研究をされているのですが、残念ながら、その詳細は明らかにされていません。鍼の鎮痛効果については、広く知れ割っているところですが、最近になって医科学的なメカニズムが少し分かってきたので、簡単に紹介します。

 鍼で刺激をすると、脳の中でモルヒネのような役割をもった物質が放出されていることが分かりました。この物質が痛みを抑えます。また脳に伝わる神経経路(脊髄)で痛みを反射的にブロックします。これは、体の一部をどこかにぶつけた時に、その部分をさすると痛みが和らぐのと同じようなものだと考えていただければよいです。脳から、そして脊髄からの痛み抑制のダブルブロックで痛みを緩和するので、鍼は痛みに大変効果があるのです。

 また、血行性の問題もあります。通常、痛みがあると、交感神経系は過剰に緊張し、末梢の血管を強く収縮させます。同時に、運動神経系も興奮させますので、筋肉は硬くなり、血管を圧迫して、血行を悪化させます。そうなると、発痛物質が一層留まり、さらに痛みを増強させることになります。これが、いわゆる「痛みの悪循環」と呼ばれる現象です。

 鍼は、この悪循環を断ち切ります。すなわち鍼の刺激により、筋肉が緩み、血行を促進させ、発痛物質を老廃物として流すことができます。

 痛みは、切ったとかぶつけたとか、明らかに痛みの原因が分かるような急性の痛みについては、説明ができるのですが、多くの方々が困っていて、病院にいってもなかなか解決しない、重だるいような不快感がある慢性痛は、詳細なメカニズムがまだ解明されていません。このメカニズムが分かってくれば、鍼の鎮痛効果もさらに説明できるかもしれません。

 最近、そのような痛みは筋肉(筋膜)が原因と言われるようになりました。私も同じように考えをもち、筋肉を(筋膜)を治療することで、成果を上げています。

 また、自律神経が支配する胃、腸、膀胱などの内臓や血圧に対する作用や、免疫系や内分泌系(ホルモン)への効果についても、研究されています。今後、素晴らしい研究結果が報告されることを期待しています。

4.はりきゅうマッサージ シーベルズ大磯ができること

 シーベルズ大磯では、先にあげた疾患は全て治療できるのかと言われると、「NO」です。では、鍼灸師は先ほどに挙げたような疾患を治せるのか、といえば簡単にはいきません。ある疾患に対して、このツボとこのツボを使って、こういった刺激をどれくらい続けて、これくらいの頻度で治療すれば、一定の効果があります、といったマニュアルはあります。ですので、治療方法は分かります。

 しかし、ここが鍼灸治療の難しいところで、マニュアル通りに鍼治療をしたからといって、残念ながら同じような効果がでるとは限らないのです。もちろん、再現性の高いものもあります。

 オールマイティに対応できるのが鍼灸の売りではあるのですが、最近は、西洋医学のように専門分野に特化して、それを売りにしている治療院がたくさん出来ました。検索するとたくさんの治療院がヒットするかと思います。
腰痛専門、肩こり専門、痛み専門、不妊専門、難病専門、女性専門などなど。こういった治療院が増えているということは、需要があるのだと思います。専門を謳っている方が、患者さんにとっては安心感があるのかもしれませんね。

 シーベルズ大磯では、鍼治療に関しては、「痛み」や「漠然とした不快感(自律神経系)」の治療経験が多いので、得意分野となっています。日本では、鎮痛に対する期待が大きいですから、自然とそのような患者さんが集まってきます。しかし、最初は痛みの治療をしていて、それが良くなってくると、実は耳鳴りがあって鍼灸で何とかならないかとか、親戚が難病なのだがどうか、といった相談を受けることが多々あります。

 経験のない疾患でも、治療方法と効果については分かりますから、そのことは患者さんにきちんとお伝えして、それで「ぜい治療をお願いします」と言っていただけるのであれば、治療を開始します。ただし、経験したことのない病気だと治療の予測がつきません。例えば腰痛だと、あと何回くらいしたら良くなりそうだとか、もし、治療後に痛みが強くなったとしても、それがどうして起こったのかが経験で分かるので冷静に対応できます。しかし、治療経験がない病気だと、治療しながら経過を観察していくしかありません。

 まずは3~10回の治療で、変化がでるか様子をみます。治療効果が見られれば、継続治療する価値があるし、効果がまったく見られなければ、そのまま続けても改善していく可能性は少なくなります。その場合は、残念ながら他の治療法を検討していただくことになります。そういう治療スタイルで長年やってきて、少しずつ治療できる分野を広げているといったところです。

5.治療院は、お寿司屋さん!?

 考えてみると、鍼灸治療院はイメージ的には、お寿司屋と似ているかもしれません。

 まず、お寿司屋さん(回転すしではない)って入りづらいですよね。鍼灸院も同様です。だから、最初は紹介で行ったり、誰かに連れられてくる人が多いです。しかし、最近ではシーベル大磯もそうですが、インターネット経由の来院も多いです。インターネットを活用しているお寿司屋さんも、多くなっているかもしれませんね。

 また、治療院の料金は、広告や看板に載せてはいけないという法律があるので、パンフレットを手に入れたり、電話で直接聞いたり、インターネットで調べてたりしないと分かりません。お寿司屋さんも値段が分かりずらいお店が結構あって、入るのに勇気がいる場合があります。 さらにいえば、料金が少し高いのも同じです。

 私は保険診療は行わず、自由診療のみで今まで治療をしてきました。時々、保険診療や格安マッサージ店と料金を比較され、高いといわれることがあります。私からすると、そこと比べないでよ、と言いたいところですが、一部の患者さんからすると同じように見えてしまうこともあるのかもしれません。患者さんからすれば、高い料金を払っているので、期待度もかなり高いです。しかし、料金は、満足度に対する評価だと思っていますから、料金以上の満足度を得てもらうために日々努力をしています。お寿司屋さんも、回転すし屋と比べられることもあるかと思いますが、「同じにするな!」と思い、頑張っておられるのだろうと想像します。

 寿司って簡単そうに見えますが、美味しい寿司を握ろうとすれば、何年もの修業が必要です。味には色んな要素が絡みます。もちろん料理人の腕はもちろんのこと、食材の選び方や、調味料・調理器具の違いもそうですし、お店の雰囲気でも味が変わると思います。他にも、治療家(板前)との会話も変わるかもしれません。静かに寿司を食べたい人もいれば、詳しく説明してくれるのを好む人もいるし、場合によっては叱られながら寿司を食べることを楽しみにしている人もいます。

 お寿司の味を施術の効果と言い換えていいと思います。治療方法(調理方法)を知っているからといって、同じような効果(味)が出せません。鍼灸は医術であり技術ですから、修業・鍛錬が必要ですし、経験が必要です。誰が治療するかで、効果は大きく異なります。それは、鍼の技術はもちろんのこと、診察やカウンセリング技術、治療家の雰囲気や言葉遣い、治療院の雰囲気など多くの要素が含まれきます。もちろん、治療家の体調も整えておかなければなりませんから、日々の養生も大切です。これは鍼灸治療に限らず、マッサージでも同じです。
  
 以前、ミシュランで三ツ星をとったお寿司屋さんの映像を見ましたが、大いに刺激を受けました。私も治療家としてのプロ魂に燃やし続けていきたいと思っております。

6.最後に

 鍼灸の効果はまだ科学的に証明はできていませんが、昔からあらゆる疾患に効果を出してきましたし、その効果を実感した多くの人たち(でも全人口からするとまだまだ少数)に支持されてきた医術です。ですから、何かお体にトラブルを抱えたときに、初めから鍼灸(はりきゅう)治療を選択肢から外されてしまうのは、我々、鍼灸師にも問題があると想いますが、非常にもったいと思うのです。

 この記事を読んで、「鍼灸治療を受けたが、良い思いをしなかった」方々には、貴方が受けた治療だけが鍼灸の全てでないことを知っていただけたと思うので、もう一度どこかの新しい鍼灸治療院にいってみようかなと思っていただければ嬉しいです。また、鍼灸が初めての方も興味を持っていただければ幸いです。